第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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「なにって、TOGAコーポレーションの会長のお孫さんが、そんなお相手でかまわないんですか? 彼女の結婚の目的はあなた自身ではなくて――」 「祖母も彼女を気に入って、祝福してくれています。あなたのご心配には及びません。それに、性格の良し悪しは育った環境によるものではないとあなたの言い分を聞いてよくわかりました」  痛烈な切り返しに有沢さんの顔は怒りに震え、真っ赤だ。久弥さんはそんな彼女を気にせず、私の肩を抱いたままさっさと歩き出した。  会場に戻るのかと思ったら彼はエレベーターの方に向かうので、いいのかと聞こうとしたがなにも言えない。  怖い。久弥さんは、今なにを思っているだろう。  おとなしく彼についていき、たどり着いたのはホテルの部屋だった。カードキーでドアを開け、先に中に入った久弥さんは上着を脱いでネクタイをはずす。一方、私はドアのところで動けずにいた。 「久弥さん」  思いきって呼びかけたら、彼はこちらに視線を向けた。続けて消え入りそうな声で呟く。 「ごめ、ん……なさい」  すぐ戻ると言ったのに探しに来させてしまった。私の人間関係に巻き込んでしまった。それから……。 「彼らは、瑠衣とどんな関係なんだ?」  静かに問いかけられ、肩を縮める。 「どちらも高校の同級生です」  そこで言葉を止めて迷う。どこまで話すべきなのか。余計なことは言わない方がいいのかもしれない。久弥さんだってそこまで私の事情には興味も……。
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