第一章 理解不能のプロポーズは突然に

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「この前、君と会って話したときの祖母は久しぶりに笑顔で生き生きしていた。今日も会えるのを楽しみにしている」  窓に反射した彼が目に映る。運転しているだけなのにあまりにも様になっていて、まるでモデルみたいだ。  ハンドルに沿わされた、骨ばった大きな手。すっと通った鼻筋に、迫力のある魅惑的な双眸。思えば男の人の車にこうして乗るのは初めてかもしれない。 「ありがとうございます。ご期待に添えられるかわかりませんが」  極力意識しているのがばれないように、平静を装って返した。違う。これは久弥さんにどうこうではなく、私が男の人にあまり慣れていないのが原因だ。  必死で言い聞かせていたら、病院にたどり着いた。続けて彼と共に光子さんの病室へ足を運ぶ。気持ちを切り替え、お見舞いの品として用意した手提げ袋の紐をぎゅっと握りしめた。  ノックして久弥さんに続き部屋に入ると、光子さんの顔がぱっと明るくなった。 「まぁ! 瑠衣さん。寒い中わざわざありがとう。久弥を迎えに行かせて正解だったわね。またお会いできて嬉しいわ」 「こんにちは。お加減いかがですか?」  そこまで喜ばれると、くすぐったい気持ちになる。私は光子さんに近づきながら尋ねた。 「平気よ。退屈すぎるくらい。でも無理させてしまったんじゃない? 瑠衣さんもお忙しいのに」 「いいえ。私も光子さんにまたお会いしたかったので」  お見舞いの品として用意したのはストールだった。ここは空調が整備されているとはいえ、パジャマ一枚なら温度を調整する必要もあるかもしれない。
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