第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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 そういう意味で私は、恋愛に関してどこか冷めている。周りの同級生みたいに彼氏にのめり込んだり、心から好きでずっと一緒にいたいと熱い思いも抱けない。 『そう、よかった。そのまま勘違いしないでね』  有沢さんから棘のある切り返しがある。嫌悪感を覚える前に有沢さんは去っていった。  町原くんは頭もよくて性格も優しく、顔もいい。女子にはわりと人気で、やっかみを受けることは今までもあった。でも彼女から向けられる感情は、なにか違う。  漠然とした不安を抱えたまま、それでも町原くんとの交際は大きな波もなく好調だった。  それが崩れたのは付き合って三ヶ月になる頃、彼の家に初めて呼ばれたときだった。  広くて立派なお屋敷に緊張しつつリビングに通される。先に電話をしておく用事があるからと席を外した町原くんを待っていたそのときだった。目の前に現れたのは、来たときに挨拶をした町原くんのお母さんと……。 『有沢さん?』  思わず立ち上がりそうになる。町原くんのお母さんはともかく、有沢さんがどうしてここに?  私の顔色を読んだ有沢さんがわざとらしく笑った。 『私の祖母と町原くんのおじいさまが懇意にしていてね。華子(はなこ)さんに呼ばれたの』  華子さんというのはおそらく町原くんのお母さんの名前だろう。町原くんのお母さんは化粧をばっちりと施し、髪型も服装もまったく隙がなく上品そのもので、圧倒されそうになる。
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