第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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 そんなふうにとめどなく久弥さんに事情を話し、また沈黙が降りてくる。 「ごめん、なさい」  耐えきれずうつむき気味に口火を切ったものの謝罪しかできない。 「さっきから、どうして瑠衣が謝るんだ?」  彼の問いかけに一拍間が空き、ぎこちなく答える。 「施設で過ごしていたのを黙っていたので……」  祖父母を亡くし、母とふたりでの生活が始まったが、母は体を壊し入院を余儀なくされた。それをきっかけに私は児童養護施設に入ることになった。結果的に母が体の調子を整え、仕事を見つけて生活基盤が整うまで、およそ一年施設で過ごした。  施設に入っている間はたまに母が会いに来てくれて『必ず迎えにくるから一緒に暮らそうね』と言ってくれるのだけが励みで、それでも別れるときはつらくてそのたびに泣いた。  学校の友達はお父さんもお母さんも一緒に暮らせているのに。  施設の友達は両親がいない子が多くて、それで八つ当たりもされた。気持ちの持っていき方がわからない。わかっているのは、私の生活は普通ではないんだということだけ。  母と一緒に暮らすようになっても、嬉しい一方でずっと不安がつきまとっていた。いつまた離ればなれになってしまうのか。置いていかれてしまうのか。  でもそれを誰にもさらけ出せなかった。なにより自分の話はあまりしないようにしようと固く誓う。  私は可哀想ではないし、なにも悪いことはしていない。けれど他人から見下されたり、偏見の目で見られるのは御免だ。傷つけられるのも。
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