第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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「謝るのは俺の方だ。瑠衣をひとりにしたせいで、守ってやれなかった。そばを離れるべきじゃなかったんだ」  彼の後悔している気持ちが声や口調からも伝わる。久弥さんが自分を責める必要はまったくない。私が……。 「瑠衣はなにも悪くないし、俺にも周りにもうしろめたさを感じる必要はまったくない」  私の気持ちを救うように強く言い放った。慰めでも憐れみでもない。久弥さんのまっすぐな思いが伝わってきて、目の奥が熱くなる。  きつく抱きしめられ、それが逆に守られているようで安心できた。  久弥さんに事情を言わなかったのは、町原くんとの一件で人を信じられなくなっていたことや、本物の結婚じゃないと冷めて考えていたから。でもそれは最初だけで、彼と一緒に過ごして距離が縮まって、本当の夫婦になりたいって言ってもらえて……余計に告げられなくなった。  久弥さんの反応を不安に感じただけじゃない。彼とは住む世界も育ってきた環境も、背負っているものもなにもかもが違うのだと、さらに実感するのが怖かった。  その一方で、黙ったままでいる罪悪感もあった。  有沢さんの言った通り、久弥さんの立場を考えたらなおさら、言っておくべきだったのかもしれない。 「瑠衣は俺の妻として、堂々と俺の隣にいたらいい」 「でも」  言いかけて目を見張る。久弥さんに口づけられ、続きは声にならなかった。  おもむろに目を閉じて甘くて長いキスを受け入れる。頬に添えられた手は大きくて温かかった。
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