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「俺は平気だから、瑠衣が先にシャワーを浴びてきたらいい」
普段通りの穏やかな口調で勧められたが、素直に頷けない。
「そんな。私よりも久弥さんの方が」
言いかけて言葉を止める。彼の指先がうなじを滑り、大きな手のひらが背中に這わされる。
「やっ」
思わず声が漏れたが、久弥さんは気にせず、器用にドレスのファスナーに手をかけ下ろしていく。
予想外の行動にパニックを起こしそうになったが、久弥さんは平然と私の耳元に唇を寄せてきた。
「なら一緒に入るか?」
反射的によろめきそうになったら彼に支えられ、慌ててたゆんだドレスを押さえた。
「さ、先に入らせてもらいます」
降参と言わんばかりに宣言すると、微笑みながら頭を撫でられる。
「どうぞ。ゆっくりしてこい」
そそくさと彼に背を向け、バスルームを目指す。
ラグジュアリー感たっぷりのバスルームは白を基調に金の装飾がところどころあって、まるでお城みたいだった。アメニティも充実していて、さっそく化粧を落とす。髪もほどいて、お湯を張っていたバスタブにゆっくりと浸かった。
なんだか夢の中にいるみたい。へりに頭を預けて、ジャグジー機能でぶくぶくと泡立つ水面をぼんやり眺める。続けてなにげなく指先で唇に触れた。
久弥さんとのキスの感覚がありありとよみがえり、鼓動が速くなる。思わず鼻下までお湯に沈めた。
それにしても、多少なりとも黙っていたことや私の過去について、なにかしら責められるか咎められると覚悟していたのに。
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