第一章 理解不能のプロポーズは突然に

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「嬉しいわ。でも気を使わないでね。お顔を見せてくれるだけで十分よ」  祖母がいたらこんな感じだったのだろうか。茶目っ気たっぷりで、笑うと目元に皺ができるが、それさえとてもチャーミングだ。  光子さんのそばにあるソファに腰掛け、しばらく談笑する。その間、久弥さんは会話に加わらず、少し離れた場所でノートパソコンを開いてなにか作業していた。 「あの子ね、いつもあんな感じなの。忙しい中こうして顔を出してくれるのは有り難いけれど、本当に顔を見せるだけなのよ」  光子さんは内緒話のように私に告げてくる。おそらく本人にも聞こえているが、久弥さんはなんの反応も示さない。光子さんは部屋の端にいる彼から私に視線を戻した。 「ところで瑠衣さんは今、お付き合いされている方はいらっしゃるの?」  突然の質問に、心臓が小さく跳ねる。 「い、いいえ。今は仕事や母、施設の手伝いなどで手一杯でそれどころじゃないんです」  正確には今に限った話ではないけれど、そこまでの説明は不要だ。 「こんな素敵なお嬢さんなのに。そうだわ、久弥」  そこで光子さんが閃いたという表情で彼の名を呼んだ。さすがに彼の注意がこちらに向く。 「今日のお礼に、瑠衣さんに食事をご馳走してくれないかしら?」  続けられた光子さんの発言に目を剥き、彼がなにか言う前に慌てて辞退する。 「だ、大丈夫です。お気遣いなく!」  立ち上がりそうな勢いで首を横に振ったが、光子さんは笑みを崩さない。
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