第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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 想像以上に久弥さんは乾かすのが上手で、本人が言った通り、丁寧に私の長い髪にドライヤーの熱を当てていく。男の人に髪を乾かされるなんて初めてだ。  しばらく身を硬くしていたけれど、徐々に心地よくなってきて眠気さえ誘いそうな勢いだ。  長いから面倒だって思われてないといいな。自分でもときどき感じてしまうくらいだ。久弥さんの性格なのか、きめ細やかに髪は乾かされていった。  ドライヤーのスイッチを彼がオフにしたので、そのタイミングで再度うしろを向いた。 「ありがとうございます。久弥さん、髪を乾かすのが上手ですね。つい甘えちゃいました」  意識していたと知られたくなくて、わざと茶目っ気混じりに告げる。  シャンプーがいいのか、かすかに甘い香りが漂い、いつも以上に髪もサラサラだ。なにより久弥さんが丁寧に髪を乾かしてくれたから。  今までの彼女にもこんなふうに甲斐甲斐しくしてきたのかな……。 「もっと甘えてくれてかまわない」 「え?」  久弥さんは私の髪に指先を通し、満足そうに一房すくって口づけた。その仕草に見惚れていると、不意に彼と目が合う。 「瑠衣は……ずっと髪が長かったのか?」  唐突な質問に目を瞬かせつつ、記憶を辿る。 「幼い頃は長かったですが、小学校に上がるときに切って、だいたいいつも肩先でそろえていましたよ。また伸ばし始めたのは大人になってからです」 「そうか」  質問の意図が読めないまま答えたら、久弥さんはかすかに安堵したような顔を見せた。それがまた理解できず、様々な可能性を考える。もしかして。
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