第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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「久弥さんは」  キスを中断して唐突に尋ねる私に、彼は目を丸くする。ムードが読めていない自覚はあるが、どうしても確かめずにはいられなかった。 『妻に触れられるのは夫だけの特権じゃないのか?』 「私が妻だから……久弥さんが私の夫だから、私に触れるんですか?」  打って変わって久弥さんの目が見られなくなる。  期待しそうになるから、最初から打ち砕いておいてほしい。勘違いするなって。これは全部――。 「そうだ」  思考を遮る彼の返答に大きく目を見開く。わかっていたはずなのに、いざ肯定されるとどう反応したらいいのか、わからない。 「私、は」  なんとか答えようとしたら頤に手を添えられ、強引に上を向かされる。 「瑠衣は俺の妻だろう? 他の誰にも渡さない」  私の反応を待たずに唇を重ねられ、その間に彼の空いている方の手が腰に回された。強引に体勢を変えられ、久弥さんと向き合う形になる。 「んっ……んん」  性急な口づけに翻弄されるかたわら、久弥さんの大きな手がガウン越しに私の体に沿わされていく。どこに意識を持っていっていいのかわからない。  触れられるのも密着するのも初めてではないはずなのに、今までの触れ方とはどこか違って困惑してしまう。そして腰や背中を撫でていた彼の手が前に回り、胸元に触れたときは驚きで口づけを中断しそうになった。 「んっ……やっ」  けれどキスで口を塞がれ、声にならない。久弥さんの手は止まらず、初めての感覚に背中がぞくぞくと粟立つ。
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