第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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 まともに久弥さんの顔が見られずうつむき気味になる。一方で、彼からの刺さるような視線を受け、肩を縮めた。妙な間があり、なにも言わない彼に不安を覚えておそるおそる顔を上げる。すると目が合ったや否や強く抱きしめられた。 「瑠衣があまりにも綺麗だから見惚れていた」  耳元で囁かれた言葉に目を見張る。続けて彼の大きな手のひらが肌を撫でだした。 「やっ」  さっきまでガウン越しだったのに、久弥さんの手の感触や温もりを直接肌に感じる。乾いた手のひらと骨張った指が肌を滑り、息を呑んだ。思わず声が漏れそうになるのを、歯を食い縛って必死に抑える。 「声、我慢しなくていい」 「でも」  私の行動なんて久弥さんにはお見通しだ。否定しようとしたら、彼の手が胸のふくらみに触れ、目を剥いた。 「あっ」 「なら、そんな余裕なくそうか」  不敵に吐息混じりに耳元で囁かれ、肩が震える。そのまま耳たぶに唇を寄せながら、彼の手は遠慮なく肌へ刺激を与えていく。 「はっ……ん……」  視界が滲んで、なにもかも初めての経験に恥ずかしくて逃げ出したくなる。でも、もっとしてほしいと思う自分もいた。 「久……弥、さん」  助けを求めるように名前を呼ぶと、唇を塞がれた。貪(むさぼ)るような口づけが思考力が鈍らせていく。 「瑠衣は俺のことだけ考えていたらいいんだ」  キスの合間に低く告げられるが、なにも返せない。もうとっくにそうなっている。久弥さんの熱に浮かされ、身も心もすべて彼に委ねた。
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