第六章 傷跡に触れて気づく想いは秘密に

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「瑠衣がそんな顔をする必要はない」 「わ、私、そんなひどい顔してました!?」  顔がかっと熱くなり、両手で頬を包む。きっと可愛くない顔をしていたのは間違いない。恥ずかしさでうつむいていたら頭に手を置かれた。 「心配しなくても昔の話だ。久志もいるし、今の仕事も気に入っているから、もうかまわない」  それは本当に? どこまでが久弥さんの本音なのかわからない。  もっと深く聞いてみようとして、思いとどまった。そこまで聞く権利、私にあるのかな? 私も過去に施設にいたのを久弥さんに黙っていた。聞かれたら答えたかもしれないけれど、自分から話そうとは思わなかった。誰にだってそういうのはある。  でも、もしも本物の奥さんならもっと踏み込めるのかな。  チクリと胸に刺さる棘に気づかないふりをする。すると今度は久弥さんから話を振ってくる。 「そういえば、祖母の件なんだがどうやら新しく試した治療薬が遺伝子の型がはまって、劇的に効いているそうなんだ」 「そうなんですか!?」  驚きと喜びで声が大きくなり、慌てて口をつぐんだ。 「ああ、主治医も驚いていた。薬の副作用もあまり体に負担のかからないもので、このまま経過が順調なら余命も延びるだろうと」 「よかった。光子さん、よかったです」  自然と笑顔になり、声が弾む。光子さん自身はもちろん、心配していた久弥さんも心が軽くなっただろう。
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