第七章 契約終了に伴う離れる決意は哀切に

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第七章 契約終了に伴う離れる決意は哀切に

 パーティーのあった週末から久弥さんはまた帰りの遅い日々が続いている。夕飯の準備さえいらないと言われ、妻よりも同居人のポジションにまたなりつつあった。  それでも家事をこなして、必要ならすぐに食事を出せるように仕度しておく。  久弥さんは仕事なんだから。そもそも私は、ワガママを言える立場ではないでしょ。  寂しく感じてしまう自身を叱責し、気持ちを切り替えて、今日の夕飯の下ごしらえに取りかかったそのとき、インターホンが鳴り、完全な不意打ちに心臓が跳ね上がる。  こんな時間に誰? おそらく久弥さんの関係者だろう。久志さん?  ところがコンシェルジュを通して告げられた来訪者の名前は、私の予想を裏切った。 「こんばんは」 「有、沢さん」  ドアを開けたら、この前のパーティーで嬉しくない再会を果たした有沢希子の姿があった。  久弥さんについて話があると言われ無視できずに通したものの、やはりやめておくべきだったかと半分後悔する。  有沢さんはパーティーのときとは違い、白ニットのワンピースにロングブーツを組み合わせ、今からデートだと言われても納得できるフェミニン系のコーデだ。ブーツのヒールは、私が履くとふらついてしまいそうなほどに高いが、彼女のスタイルのよさを引き立てている。 「夜分、遅くにごめんなさいね。十河さんについて面白い話を聞いたから、ぜひ倉本さんに教えて差し上げないと、と思って」  楽しそうに笑っているが、その目は冷たい。彼女の目論見が読めず警戒した視線を送る。
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