5642人が本棚に入れています
本棚に追加
「すみません。そんなつもりはないんです」
慌ててフォローしたら久弥さんは自嘲的に笑った。
「たしかに嫌いな相手と食事をしても苦痛なだけだろうな」
「へ?」
彼の言い分に目を丸くする。嫌い? 誰が、誰を?
久弥さんは軽くため息をついた。
「あまりいい印象をもたれていない自覚はある」
「そ、それはこちらのセリフなのですが」
思わず本音で言い返す。どう考えても彼は私をよく思っていない。けれど今は先に誤解を解くべきだ。
「嫌っていませんよ。最初にあんな言い方をされて身構えたのは事実ですけど……でも嫌いになるほどあなたのことをなにも知りませんから」
言ってから気づく。これはこれでまた無礼な言い方ではないだろうか。どうしてこう、私は上手く立ち回れないのかな。
「そうだな」
自己嫌悪に陥っていると隣から反応があり、改めて顔をそちらに向ける。すると笑うとまではいかなくても、幾分か穏やかな表情をした久弥さんが目に映った。
「俺も君をまだよく知らない。だからひとまず一緒に食事をしないか?」
まさかそういう結論に持っていくとは思わなかった。
「私はあなたにはもちろん、光子さんにもなにかしてほしいとか、返してもらおうとは思っていません」
義理堅いのか、光子さんの意思をどこまでも尊重するのか。
「わかっている。俺が個人的に誘っているんだ」
ところがあまりにもストレートな切り返しに、頬がかっと熱くなる。
最初のコメントを投稿しよう!