プロローグ

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「はじめまして、瑠衣さん。わざわざ来てくださってありがとう」  目の前の老婦人はTOGA(トオガ)コーポレーションの会長、十河(とおが)光子(みつこ)さん。前社長の妻であり彼女自身も経営に携わっていたそうで、今は息子が社長となりグループ会社を切り盛りしているが発言権はそれなりにあるらしい。  夫の久則(ひさのり)氏が数年前に亡くなり、悲しむ間もなく跡を継ぐ息子をサポートするために必死だったそうだ。気が抜けたからか、数ヶ月前に体調を崩してしまったと笑って説明される。 「会社の経営から離れたら、未来を担う子どもたちのためになにかしようってずっと決めていたの。そのときあなたのお母さまがされている活動を知ってね」 「そうだったんですか……ありがとうございます。子どもたち、すごく喜んでいますよ。勉強机が使いやすく新しくなったおかげで今では順番待ちなんです」  私の回答に光子さんは嬉しそうに微笑む。 「あらあら」  その表情は慈しみにあふれていた。一方で彼女の話を聞きながら、緊張している自分がいる。  TOGAコーポレーションは、不動産事業をメインにマンションの設計・施工なども手がける名の知れた大企業だ。ここ数年は海外進出にも力を入れていて、主に東南アジアの国々でその技術を発揮し、都市部のさらなる発展に貢献している。  ビジネスの世界にそれほど詳しくない私でもこうした事業内容を知るほどの知名度だ。まさか彼女がTOGAコーポレーションの会長だなんて思いもしなかった。
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