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「ありがとう、瑠衣さん。あなたの話を聞いて、改めて寄付をしてよかったと思えたわ。子どもにとっても大人にとっても、とても大切な必要な活動ね」
「そんなふうに言っていただけて恐縮です」
改めて頭を下げる。
それからひとしきり話が盛り上がり、そろそろおいとましようと立ち上がって、彼女のそばに控えている秘書らしき人に視線を送る。そのとき病室にノック音が響いた。
ドアのほうを見ると、スーツを着た男性がこちらに向かって大股で近づいてきた。背が高く、艶のある黒髪はワックスできっちり整えられ、まったく隙がない。端正な顔立ちではあるがにこりともせず、小さい子どもなら泣き出しそうな迫力があった。
「久弥! 来てくれたの?」
圧倒されている私とは対照的に、光子さんは明るい声で尋ねた。どうやら彼は、彼女と親しい間柄らしい。
「少し時間ができたんだ。調子は?」
ぶっきらぼうに彼は尋ねたがその口調はどこか優しい。大きくなくてもよく通る低い声は耳に残った。
「今日はとてもいいの。可愛いお客さんがいらしてくださっていてね。こちら倉本瑠衣さん。前に私が寄付したNOP法人の方で、こうしてわざわざお礼を伝えに来てくださったの」
紹介され慌てて頭を下げる。彼は私をちらりと一瞥したが、その瞳は冷たく興味なさそうだ。
「瑠衣さん、彼は孫の久弥。三十二歳で会社経営者をして忙しくしているけれど、こうしてたまに顔を出してくれるのよ」
なるほど。言われてみるとくっきりとした目鼻立ちは光子さんに似ているかもしれない。
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