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第一章 理解不能のプロポーズは突然に
日が暮れるのが早くなり、仕事が終わる頃には辺りは真っ暗だ。今日も疲れた。座っているとはいえ、企業受付の立場は常に気を抜けない。でもこうして残業もほぼなく定時で帰れるのは有難かった。
光子さんの元を訪れ早三日。母には余計なことは言わず、簡単な報告だけを済ませた。これ以上、私の出る幕はない。
コートを秋仕様の薄手のものから、もう少し分厚めのものに換えたほうがいいかもしれない。ぼんやりと考えていたら家の前に見慣れない車が停まっていた。
なに?
我が家に似つかわしくない有名フランスメーカーの高級車に訝しげな視線を送る。すると運転席のドアが突然開き、心臓が口から飛び出そうになった。
「え?」
さらに中から現れた人物に驚きが隠せない。もう二度と会う機会などないと思っていた光子さんの孫である久弥さんが怖い顔でこちらに向かって歩いてくる。
人違いを疑いたくなるが、彼ほど印象に残りやすく整った容姿の男性は、そうそういない。
一体なんなのか。またなにか文句を言われるのか。
踵を返したくなる衝動を抑え、ぎゅっと握りこぶしを作って身構える。彼は私の正面まで一直線にやってくると、背筋を伸ばしたまま頭を下げた。
「この前は、突然不躾な態度を取って悪かった」
謝罪をされるとは思ってもみなかったので、すぐに状況が理解できず目を瞬かせる。
「祖母から詳しく聞いた。そのうえで判断すべきだったと後悔している。祖母はまた君に会いたがっているんだ」
久弥さんは顔を上げ、気まずそうに説明した。
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