第一章 理解不能のプロポーズは突然に

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 彼の真摯な態度は受け入れたいけれど、素直に「はい」とは言えない。それを顔には出さず、無理やり笑顔をつくる。 「わざわざ出向いてくださり、ありがとうございます。また折を見てお伺いしますね」  無難な回答でお茶を濁す。  優しくて人柄の良さも伝わってきた光子さんに会いたい気持ちはある。けれどこれ以上この人たちに関わるのはよくないと、私の中で警鐘が鳴り響く。  彼も本気ではなく、自分の行動を省みて祖母の思いを伝えに来ただけだ。これで、おしまい。  ところが彼の横をすり抜けていこうとしたら、不意に腕をつかまれた。 「またっていつになる?」  なぜか切迫詰まった様子で尋ねられ、掴まれた腕の力加減も合わさり、その迫力に圧される。 「いつ、と言われましても……」  すぐには答えられない。しかし久弥さんの眼差しは怖いくらい真っ直ぐで、適当にやり過ごすのは難しく感じた。スマホをかばんから取り出し、スケジュールを確認する。 「今週の土曜日の夕方でしたら」 「わかった。夕方に迎えに来る」  久弥さんの言葉に目を見張る。 「い、いえ。そこまでしていただかなくても大丈夫ですから」 「いいから。連絡先を教えてくれないか」  さっきから有無を言わせず話を進める彼にさすがにムッとする。 「ちゃんとお伺いしますよ。信用ないかもしれませんが」  つい棘を含ませた言い方になってしまったが、彼は眉ひとつ動かさない。
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