第五章 初デートで縮まる距離は確実に

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 あのあと、手伝うと言ってキッチンに顔を出した久弥さんはいつも通りだった。その様子に安堵して、何事もなかったかのように振る舞う。実際、なにかあったわけでもない。  彼のベッドに先に潜り込み、寝返りを繰り返すもなかなか落ち着く体勢が見つからない。昨日とは真逆だ。今日は先に寝てしまいたいのに、それは叶いそうにない。  原因は、はっきりしている。  キスくらいでうろたえすぎでしょ。  頭から掛け布団を思いきりかぶり、ぎゅっと体を縮めた。  契約で期間限定とはいえ結婚している間柄で、お互いいい大人だ。だから……。  そこでドアが開いた気配がして身を固くする。久弥さんがベッドに近づいてくるたびに鼓動が速くなっていった。  ここで寝たふりをできるほど器用じゃない。観念してベッドから顔を半分出すと、驚いた面持ちの久弥さんと目が合った。 「起こしたか?」 「いいえ」  小声で返し、彼の寝るスペースをさらに空けようと横に寄る。  久弥さんは複雑そうな表情でベッドに入ってきた。ここで頭を撫でられたり手を握られたり、多少のスキンシップがあるのが通例なのだが、今日は彼から距離を詰められる雰囲気はない。  べつに義務でも決まりでもないのだが、気持ちがざわつく。 「瑠衣」  名前を呼ばれ、おそるおそる彼に視線を向けた。ほぼ明かりの落とされた部屋でも久弥さんの表情ははっきりと見える。
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