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出会い
月明りのない帰り道。
卒業研究のせいで夜11時は回っている。
近くに人影は無い。
近藤美樹は自分がのっぴきならない状況に置かれていることを感じ、全身に鳥肌が立った。
三人の若い男に囲まれている。周りは駐車場ばかりの一本道だ。
男たちは間違いなく不良だった。
年は20代前半だろうか。赤髪の男がどうやらリーダー格で、丈夫そうな皮のジャケットを着ている。耳には銀色のピアスがじゃらじゃらと光っていた。
左右に控えるのは長身の、髪を金髪に染めた男と、ソフトモヒカンの男だ。どちらもガラが悪そうで、近づかれるとタバコの嫌な臭いがつんと鼻を刺した。
「ねえ、おねえちゃん。金持ちそうだね。俺達に分けてくれない?」
モヒカン男がねばりつくような視線と共に話した。
美樹はポケットのサイフを、スカートの布越しに確かめた。今、サイフを出せば助かるかもしれないけれど、悪いことに、サイフには今月の食費が全額入っている。これを渡したら実家の親に生活費を無心することになる。
「それより、いい所に行こうよ」
金髪の男が顔をキスする間合いまで寄ってきた。黄色く染まった汚い歯が見える。
怖い。息ができない。
「そんなに怖いところじゃないって。むしろ、楽しいかもよ」
赤髪のリーダー格が、にやついた笑顔ではやし立てた。
「きゃっ」
モヒカン男に胸をつつかれ、美樹は思わず悲鳴を上げた。
「結構いいクルマ、持ってんだぜ」
金髪男が腕をつかんだ。小柄な美樹に対しては20センチ以上の身長差がある。体つきはスウェットスーツの上からでは良く分からないが、鍛えているのだろう。腕をつかむ力は強く、痛いほどだ。
「止めて下さい」
と蚊の鳴くような震えた声しか出なかった。
「かわいいじゃん、一緒にお酒、飲もうぜ」
金髪男の腕が、無理やり美樹を引っ張った。
「あの、その、お金はあげますから、乱暴はやめて、、、、、、。」
美樹は哀願したが、男三人グループは獲物を前にした肉食獣のように興奮して、引き離す力を強めた。精一杯足を踏ん張ったが、抵抗はむなしく、スニーカーがずるずるとアスファルトを引きずられていく。
「止めなよ。彼女、嫌がってるじゃん」
美樹が振り向くと、そこには長身の男が立っていた。男は低い声で、もう一度止めなよ、と強い口調で言った。
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