出会い

3/3
前へ
/70ページ
次へ
 美樹と男性は駅前の繁華街へと逃れた。美樹を支える男性の、筋肉質な体が途方もない安心感を与える。わずかにシトラスの香りがした。 「じゃ、ここで」  と男性は美樹の背中に回した手を離した。  美樹に顔を近づける。眉は細く、鼻筋はくっきりとしている。瞳は吸い込まれるようだ。美樹の心臓が跳ね上がった。 「すみませんが、警察には届けないで下さいね。ケンカに巻き込まれた事とか話すの、時間のムダですから」 「はい」と言おうとしたのに言葉が出ない。二度三度とお辞儀をした。  この人のことをもっと知りたい。唐突に、得体のしれないフェロモンのような感情が湧き上がってきた。  美樹は勇気を出して尋ねた。 「あ、あのっ、連絡先とか教えてもらえませんか? お礼とか、したいんで」  どもりながらも伝えることができた。 「いいですよ」  男性はとびきり甘い笑顔を浮かべると、ポケットに手を突っ込み、無造作に名刺を取り出した。  美樹は卒業証書をもらった時のように、うやうやしく頂戴した。 『奈良橋豆腐研究所 本部長               荒巻拓哉(あらまきたくや)』  と紹介があり、メールアドレスと電話番号が末尾に記載されていた。  かっこいい人だった。また会いたいな、と美樹は心から念じた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加