大学

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 2月も終わりの、まだまだ寒さが続く中、美樹は大学の研究室でやりたくもない研究をぼそぼそと続けていた。 「文系に行けば良かった」  美樹は目の前の発酵タンクを眺めながら、ぼそりとつぶやいた。きっと死んだ魚のような目をしているだろう。  美樹が入学した大学は『桜花大学 バイオ工学科』だ。高校生の頃、これからはリケジョの時代だ。素敵な彼氏もすごい就職先も思いのままだ。と妄想をいだいて受験したのだ。  はっきり言って、失敗だった。  まず、桜花大学は最底辺の私立大学だということ。英語と生物の二科目がそこそこできれば誰でも合格できるFラン大学だ。  校訓は『思索生知』。  入学当初、美樹は読めなかった。しさくせいち、筋道をたどって物事をうまく考えることによって知恵がうまれること。という意味だそうだ。  当然、男のレベルは低い。親が金持ちだから、「とりあえず大学は出ておけ」と言われて入ったボンボンの男。将来のことなんてまるで考えず、遊びのことしか頭にないやつ。クラスに一人はいる、ガンダムか幕末か戦国時代にだけやたら詳しいやつ。  美樹は丸顔で目の大きい、話好きな、世間一般から見ればそこそこ美人であると自負している。  一度だけ、いかにも遊び人風のチャラい先輩に告白されたが、その場で断った。美樹はまだ処女なのだ。乙女は最愛と心から思える男性に贈りたい。  理系の学生生活は過酷だった。ほとんどの講義が必修で、週に3日は実習がカリキュラムになっている。実習の後にはレポートまでついてくる。無事に進級するにはガリ勉になるしかなかったのだ。  バイオということで、清潔な実習ばかりだと思っていたら、畑に出かけて腕までドロだらけになったり、有機溶剤を使う実習のためネイルアートを禁止されたりと散々だった。  こうした試練を乗り越えて、無事4年生まで進級すると、卒業研究という最終関門がある。大学にはそれぞれの分野の研究室がある。その研究室のどれかに所属して、教授以下、大学の先生の下について研究をするのだ。
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