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なぜ、彼女が怒りをあらわにしたのか。
その答えはサンダルフォンが知っている。
「ミカエル」
名前を呼ぶ彼に怨めしそうな視線を向ける。
苛立ちとも、怒りとも違う色が紫水晶には浮かんでいた。
「それは、あんたの名前でしょ。ディー」
絞り出すような声がミカエルの喉から漏れる。
ディーはサンダルフォンの愛称で、ミカエルだけが彼をそう呼ぶ。
「ううん、今のミカエルは君だよ」
サンダルフォンは微笑んだまま応えた。
まるで、以前のミカエルが彼だったかのように。
「とんだ茶番ね。神々から愛されし熾天使だったのに、下界に降りて人間として生きる道を選ぶなんて正気の沙汰じゃなかった」
「僕はいつだって正気だけど」
「はっ! 正気だと言うなら、わざわざ人間から天使になって戻てくるなんてする!?」
ミカエルの言葉とともに、彼女の周りの空気が爆ぜた。
黄金の髪が熱気で逆立ち、彼女の怒りを表しているようだ。
「全て必要だったんだよ、エル。君がミカエルになり、ルシフェルを生み出したのと同じように」
サンダルフォンは微笑んだまま言うと、ミカエルに向けて手を伸ばす。
途端に、彼女を覆っていた炎と熱が消えた。
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