冷たい女神たち<アグネス編> file-NO.2

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今、アグネスは町から数マイル離れた森近くの湖でプレイボーイ誌を読んでいる。フリントロック式の銃声は聴こえないし、火薬の匂いもしない。誰も殺されない世界の中にいるような、そんな午後だ。木々は五月の風にざわめき、水面にたくさんの酸素を落とす。稚魚たちが下降してはまた水面近くまで浮上する。――湖に浮かぶデッドボディは、何も話さない。だんまりで、愛を囁くこともない。ただ、そこそこの美男だった顔を水面につけて、黙ってぷかぷか上下しているだけだ。 デッドボディは、水の動きにあわせ、少し河岸側へ遠ざかっては、また謎の力で、煌めく桟橋に戻ってくる。少しずつ、少しずつ、アグネスの心へ流れつこうとしているかのように。一方アグネスのほうはデッドボディから目を逸らし、プレイボーイ誌のページを開き、夢中になってバニーガールを眺め続けている。ウサギという生き物は、年中恋人を受け入れる準備が出来ている。 ”なのにどうして彼はこんなに可愛い女たちを、愛さなかったのかしら?” 
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