10月9日(日) 東京

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10月9日(日) 東京

「ねえ、あなた・・、ひとつ、お願いがあるの」  夜10時をまわった。  今年、小学1年生になった娘の(らん)ともうすぐ3歳になる息子の(こう)は、子ども部屋ですでに深い眠りに入っているはずだ。  梨花(りんか)はダイニングテーブルから夫の隆之(たかゆき)に静かに声をかけた。  隆之はリビングのソファにふんぞり返って、ボリュームを落としたテレビにぼんやりと目を向けていた。  小さなサイドテーブルでは、薄いハイボールのグラスが汗を滴らせている。それに時々手を伸ばしはするが、テレビ番組の内容に集中しているようには見えない。  ん、という面倒くさそうな生返事が返ってきたのは予想したとおり。 「せっかくだから、こっちにいるあいだ、子どもたちのこと、もっとちゃんと見てあげて」  次の返事までは少々間があった。聞こえた言葉の意味をなぞっているのだろうと梨花は思った。  久しぶりに帰ってきた自宅でまで緊張感を求めるつもりはないけれど、もうちょっと真面目に耳を傾けてくれてもいいだろうと、醒めた気持ちで隆之を見た。  怒りはない。最初からなかったな、と新鮮な思いでちょうど1年前を振り返る。ただただ惨めなだけだった。でもこの1年間で少しは変われたようだと思うと、うっすらと笑みが浮かぶ。 「せっかく、って・・、その言い方、おかしいだろ」  中途半端にダイニングのほうに顔を向ける。でも梨花を見ようとはしない。 「おかしくない。あなたは東京にいたあいだは平日も土日も、それから祝日も、子どもたちと顔を合わせる時間がほとんどなかった。そうでしょ」  バツが悪そうに、またテレビの画面と向き合う。 「それはしかたなかった・・」
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