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「なんで」
「パパ、きらいだから」
「冷たいなあ。パパは蘭たちのために一生懸命……」
「パパ、いったじゃん。女の子はつまらない、って」
蘭は顎をあげて前を見たままだ。
ゴムで結えた上から幅広の白いリボンを巻きつけていた梨花の手が止まった。
ダイニングチェアに座った隆之の顔を見下ろす。あなた、言ったの、と目で問うている。
「あ、いや、パパはそんなこと……」
「いった。女の子はつまらないからなあ、っていった。だからパパは蘭のことがきらいなの。航のことは好き。男の子だから。ママのこともきらい。女の子だから。だから蘭もパパ、きらい」
「蘭、そんなこと言わないの。パパがちゃんとお仕事してくれているから、蘭もこうしてピアノの発表会に出られるんだよ。毎週レッスンに行って、お月謝を払って、ドレスを買うこともできるんだよ」
梨花がうしろから蘭の顔を覗き込んだ。
「ママもおしごと、してる」
蘭がしっかりと梨花の目をとらえて言う。
11月から始めた近所の雑貨店のパートのことだ。友人の店だか、常連になって友人になったのか、そのあたりのことは隆之はいいかげんにしか理解していない。週に四日だと言われたことは覚えている。
それにしても、まだ始めて1週間にもなっていないし、どうせパートだからたいしたこともしていないのだろうが、蘭にしてみればそれでも『おしごと』なのかと笑いが込みあげた。
「ママのお仕事とパパのお仕事は違うの。ママは、ほら、蘭が幼稚園に行っているあいだだけしかしてないでしょ。パパは一日中、お仕事してる。もらうお金だって、うんと違うんだから」
「だから、女の子はつまらない?」
「え……」
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