一年前:11月7日(日)

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「一日中、おしごとしないから、女の子はつまらないの?」 「あのね、そういうことじゃ……」 「いいのっ。蘭もそう思ったから」 「え、何を……」 「幼稚園でね、先生がみんなに順番にきくの。大きくなったらなんになりたいですか。男の子はね、みんな、すごくおもしろいの。宇宙飛行士とか、電車の運転手とか、消防士さんとか、サッカーの選手とか、いろいろ。みんなちがう。でもね、女の子はちっともおもしろくない。みんな、おかあさんとかはなよめさんって言うの。ときどき、お花屋さんとかケーキ屋さん。つまんない。だって、はなよめさんって、おしごとじゃないでしょ。おかあさんって、おしごとなの?」 「蘭は、なんて言ったんだ」  隆之がテーブルに身を乗りだして訊いた。俺の娘はたいしたもんだ、わずか6歳で世の中がわかっていると、勝ち誇った気分が胸の底から湧きあがってきた。その矛盾に気がついたのはずっとあとになってからだ。 「べつに」 「いいじゃないか、教えてくれよ」 「だからー、べつにない、なりたいものないですっていったの」 「蘭、そんなこと言ったの?」  梨花が蘭の顔を、今度は少し屈んで正面からじっと見た。 「ダメなの?」 「あ、ううん、ダメじゃない。うん、ダメではないけれど、でも……」 「先生さあ、すごーいしつこいの。はなよめさんは? お花屋さんは? なにかなりたいものないのって、何回も何回もきくの」 「それでどうしたの」 「ん、だから、それでいいです、って」 「え……?」 「だから、先生が、これはどうかな、とかいって、それでいいって」 「それって、なに……」 「おぼえてない」  隆之が声をあげて笑ったら、梨花に睨みつけられた。
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