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言われたとおりの1時間を少し過ぎた頃に着き、デリバリーのピザを注文した。
食後は、1Kの部屋では存在感のあるシングルベッドで抱き合った。
「雪絵って名前、好きじゃない。生まれた季節もわかっちゃうし、どんな色白のたおやかな女性だろうって思われるでしょ。実際はこんななのにね」
自分の腹を自分の手でなでながらそう言ったのは、この部屋に通うようになってすぐの頃、やはりベッドのなかだった。
名前とは裏腹に、雪絵の肌は小麦色だ。いつも適度に湿り気があり、手に吸いつくような感触がある。そして、空気がぱんぱんに入ったゴム鞠のように鋭く反応する。
それでも、溺れそうになる自分をコントロールできていることに、隆之は誇りを感じていた。関係を持った当初から、雪絵の部屋を訪れるのは週に一度までにしている。打診して雪絵が難色を示せば、あっさりと退く。決して無理強いはしない。そして、泊まらない。
避妊にも気を配っていた。ピルを服用するように頼み、毎月かかる費用より多めの金額を手渡している。そのうえでコンドームも使用する。
部屋で飲み食いした時も、隆之が代金を、常に少し上乗せして支払う。
都合のいい女になっているという意識を持たせたくなかった。だが客観的に見れば、そう思われてもしかたないことは隆之にもわかる。
「好きな男ができたら、付き合えばいい」
卑怯者、と内心で己を嘲笑しながら言ったこともある。
「いればね、そうする」
雪絵だったら当然、躊躇しないだろうと思った。
できるかぎりフィフティ・フィフティの関係にしたかった。ふたりで楽しい時間を共有する関係。だが、それが不可能であることも承知していた。
だから隆之は雪絵の部屋へ行くようになってからは、梨花を抱かなくなった。考えた結果ではない。無意識のうちに生まれた罪滅ぼしの気持ちがそうさせたのだろう。そしてもちろん、ふたりの女の比較も頭の片隅にあった。
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