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「ん……、そのとおりの意味よ。人の『好き』レベルって、それぞれだと思うの。全身全霊で好きになっちゃって、もうなりふりかまわぬ、って感じにまでなる人もいれば、嫌いじゃないな、って程度なのに、好き、って言っちゃう人もいる」
「俺がそれだってのか」
「あなたはそれ以上よ。好き、とすら言わないでしょう。そうだなあ、うーん、許容かな」
「許容……?」
「そう。許せる範囲の人とそうでない人。そういう区別」
面白くなさそうな顔でハイボールをまたひと口。でも、聞いてくれている。きっと思い当たる節があるのだ。
「そんなつもりはない、けど……」
拗ねたような横顔に、思わず梨花の口元に笑みが浮かんだ。
「他人の心のなかは見えないもんね。でも、あなたは自分のことが好きすぎるの。だからほかの人を好きになることができない」
「誰だって自分のことがいちばん好きなもんだ」
「そうかな。わたしは……、自分のことが嫌いだった時期がある。でもそんな時でも、蘭と航のことは嫌いにならなかった。自分よりずっと好きだった。あなたは……、たとえば、あなたの自分のことが好きレベルが100だとして、その時のあなたがいちばん気に入っている人でも、好きレベルは、たぶん、1か2くらい……。わたしには、そう見える……」
反論がない。片手で揺らしているグラスにぼんやりした視線を落としている。
変わったな、と梨花は思う。去年だったら、こんなことを言えばまたたく間に否定されただろう。人を冷血動物みたいに言いやがって、とか、男と女の愛情は形が違う、なんて。
「ひどいな…………」
まるで手元の酒に語りかけるように、ぽつんと。
「あ……、気を悪くしたのなら、ごめんなさい。ただ、わたしから見たあなたはそんな感じ……」
「いや、そうじゃなくて……」
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