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第10話 お持ち帰り
カラオケでも全員がアルコールを頼み、二時間が経つ頃にはだいぶ出来上がっていた。光はカルピスサワーを一杯しか飲まなかったのでそこまでではないが、それでも自分史上では酔っているほうだ。
「あちゃ~、大谷君潰れちゃってるよ」
「誰ー? こんなに呑ませたの」
「いやいや、自分でグイグイ呑んでたから! ちょっと飲みすぎじゃないかって途中でちゃんと声かけたよ、俺らは」
「も~!」
スタッフがやいのやいの言ってる間に光はそっと大谷に近付き、声を掛けた。「大谷さん、大丈夫ですか……?」
「ん……三澄さん? よしよししてくださいよぉ……」
「わー、すごい酔ってる」
でもちょっと可愛い、と思った。思わず反射的に頭を撫でてしまうところだった。
「三澄君、タクシー代出したげるから大谷君のこと任せていい?」
「えっ? でも俺、大谷さんの家知らないんですけど」
「それもタクシー代に含まれています」
「……」
(泊めてやれってことか……)
気になっている相手と朝まで一緒だなんて――しかも自分の部屋でふたりきり――どんな拷問だと思ったが、逆にラッキーでもあった。
(どうせ朝まで爆睡してるだろうし、どさくさにまぎれてあんなトコとかこんなトコとか触ってやろうかな……)
それは冗談にしても、女性陣に酔っ払いを連れて帰らせるわけにはいかないし(希望者がいるかと思ったが、意外に誰も名乗り出なかった)自分は大谷のプリセプターだし、と色々な理由を心に並べ立てて光は了承した。自分だけタクシーにタダ乗りで帰れるのもラッキーだ。
*
「大谷さん、着いたので起きてください」
「ん……はい」
大谷はタクシーの中でも爆睡していたが、光が声を掛けると目を覚まして自分で起きてくれた。足元が激しくふらついていたので、今度は光が支えながら歩いた。
(これも役得ってやつ、かな)
部屋は片付けてこなかったが、男同士だし、酔っ払いだし、気にしないだろう。光は大谷を部屋に招きいれると靴を脱がせてやり、ベッドで横になるよう促した。大谷は光のベッドにごろんと横になると、すぐに寝息を立てて爆睡した。
「まったく……人の気も知らないで」
なんとなく。光はなんとなく手を伸ばして――大谷の頭をよしよし、と数回撫でた。
「……こどもみたい」
どう見ても自分よりは大人だし、身体だって大きいのに、自然に口角があがってそんな言葉が洩れた。そして光は乱雑だった部屋を簡単に片付けて、シャワーを浴びた。
シャワーを浴びて部屋に戻ったあと、自分の寝床はどうしよう問題にぶち当たった。当然だが寝具は一組しか揃えておらず、そのベッドには大谷が寝ている。そして今は少し肌寒さを感じる十月末だ。
(まだラグの上……でいけるかもしんないけど、大谷さんの性格からして起きたときに俺が床で寝てたら絶対気にするよな。それでまた病棟移動するとか、もしくは病院辞めるって言いだしたら大変だし……)
一緒に寝るしかない。シングルベッドで、既に大谷ひとりでいっぱいいっぱいになっているけれど。
(落ちたら、そのときはそのときだ。とりあえず一応一緒に寝たんだよって言えば……あれ? それってもっと気にさせるのか?)
ベッドは壁にぴたりと付けているので、自分が壁側で寝れば落ちることはない。さいわい、壁の方に少し入れそうなスペースが開いていた。
「おじゃましまーす……って、俺のベッドだけど」
独り言を言いながら、光は大谷の横にもぐりこんだ。
(うわうわうわ! 予想以上にやばい! 近い! 今夜眠れるかな俺!?)
大谷はシャワーを浴びていないので、当然酒臭いというか汗臭い。それでも光は、近すぎる大谷に死ぬほどドキドキした。
「ん……」
(えっ!? 起きた!?)
「三澄さん……?」
「はわっ、そうです俺です! ごめんなさい何もしてないです!」
「すいません……シャワー貸してください……」
「えっ……あ、どーぞ」
大谷は普通に寝ぼけているのか、のっそりと起きるとおもむろに服をぽんぽん脱ぎだし、全裸になると浴室の方へと歩いていった。もしかすると、自分の部屋だと思っているのかもしれない。
(お、大谷さんの全裸を見てしまった……アレ、でっか……!)
これも役得だと思いながら、光は自分には少し大きめのシャツとスウェット、タオルを脱衣所に用意してあげた。
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