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第5話 ひとりあそび
「っあー……つかれた……」
職員寮に帰るなり、光はベッドにあおむけに倒れ込んだ。寮といっても病院が数部屋借りている普通のマンションで、寮はここだけでなく病院の周辺にいくつか点在している。間取りは一般的な1Kだ。
光はクリーム色の天井をぼんやりと見やり、今日のことを思い返す。
(指導とか慣れないことして疲れた……ていうか初日からやらかしたけど。大谷さん、俺の話をしっかり聞いてくれるし、すごく指導しやすかったな)
就職して以来何度も辞めたいと思った仕事だが、同じくらいやってて良かった、と思うことがある。患者に礼を言われたり、医師に褒められたりした日などだ。今日はそのどちらでもなかったけど、続けていて良かったと思えた。
(誰かにつきっきりで教えるのは初めてだけど……こんな俺でも頼りにされてるって分かって、嬉しいな)
しばらく目を瞑ってじっとしていたが、なんとなく急にそんな気分になって、光はそっと下半身に手を伸ばした。
通勤時に履くだけだからと自分に言い訳して、何日も履き続けているデニムのファスナーをおろし、反応しかけていた自身を取り出し、おもむろに上下にしごき始める。
「はあ、はあ、……」
目をつむって、オカズにしたのは……
(大谷さん、たくましかったなぁ……あの力強そうな太い腕に抱きしめられたい。うわ、想像するだけでやばい)
年上の後輩だった。一目惚れをしたとかそういうのではなく、単に好みなだけだが。
(自分のプリセプティーをオカズにするとか、俺、最低……)
そう思っていても、手と妄想は止まらない。身近な人間をオカズにする罪悪感でさえ、スパイスみたいなものだ。
「はあっ、きもちぃ……っ」
先端を擦ると透明な先走りがダラダラと零れてきて、光の手を汚す。
「ふ、はあ、は、んっ!」
自分が特に弱い雁首のところを一心不乱にいじくりまわし、数分後、ドプッと手の中に勢いよく吐精した。
「はー、はー、……」
光はイッたあと、しばらく身体を横向きにして、いもむしのように丸くなった。
光はゲイだ。高校に入るまでその自覚は無かったが――もしかしたら、という懸念はあったものの――告白されて彼女ができたことはあるが、どうしても相手のことを好きだと思えず、結局キスもせずに別れた。その後、誰かと付き合った経験は無い。
しかしそのときは女と遊ぶより男友達と遊ぶほうが面白い、と思っていただけだった。初めて自分が同性が好きだと意識したのはもう少しあとのことだが、そのきっかけが何だったのかは思い出せない。
(今日は、前だけの刺激じゃものたりない……)
光は身体を起こしてベッドの下に手を伸ばした。取り出したのは、コンドームとローションとディルドがきれいに収められている、大人のおもちゃ箱だ。
(コレ使うの、一ヶ月ぶりくらいかな?)
つめたいジェルローションを手のひらに出し、指と後孔にたっぷりと塗りつけて、まずは中指をつぷんと押し込めた。
「んっ……久しぶりだから指もキツ……」
慣れたら次は人さし指、薬指と増やしていき、太めのディルドが挿入できるくらい、やわらかくナカを解していく。
「はあっ、そろそろ……やっぱまだきついかな……? んっ、あっ、入ったぁ……!」
光には特に趣味といえるものはなく、しいていうならばコレだ。就職してから休日に出掛けるのが億劫で、家でダラダラと自慰をしていたらだんだんとエスカレートしていった結果である。
以前はオナホールも持っていたが、前立腺オナニーの気持ち良さに目覚めてからは一度も買っていない。
「んっ、はぁっ、おーたにさ……あっ、チンポきもちぃっ……俺のナカもっと擦ってぇ……!あんっあっあっ」
光の誰にも言えない趣味で、仕事のストレス発散方法。ちなみに24歳になった今でも、生身の人間相手には童貞処女のままである。
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