第7話 歓迎会

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第7話 歓迎会

 大谷が二階病棟に来てから一ヶ月が過ぎ、そういえばまだ歓迎会をしていない問題が昼休憩中に持ち上がった。 「いいですそんなのしなくて! どうか皆さん気を使わないでください」  大谷は顔の前で両手をぶんぶん振って断ったが、女性スタッフ達の圧は強かった。 「こういうことはちゃんとしなきゃダメよぉ! 歓迎されてちょうだい」 「はあ……はい」 「ていうか、三澄君が最初に気付かないと! プリセプターなんだから」  当然の流れで、大谷の隣で小さくなっていた光にも流れ弾が当たった。 「はい、すみません。全然気がつかなくて」 「あああ皆さん、どうか三澄さんを責めないでください!」  大谷は光を抱きしめんばかりの勢いで庇いだてした。光は少し気恥ずかしかったが、別に――というか全然悪い気はしない。 「あら~先輩をかばっちゃって、大谷君ってば優しい! じゃあ三澄君、大谷君の歓迎会の幹事お願いしていい?」 「はーい」  夕方のオムツ交換に回っている途中、大谷が申し訳なさげに言った。 「三澄さんすみません。俺のせいでなんか面倒なこと頼まれちゃって……」 「え? 大谷さんが気にすることないですよ。実際に俺が率先してやらなきゃいけないことだし。……まあみんな、理由付けて飲みたいだけなので本当にお気になさらず。あ、大谷さんの食べたいものとか、好きな食べものとか教えてください。店選びの参考にしますんで」 「俺も手伝います! 俺の歓迎会ですし!」 「いやいや、歓迎される人が手伝わないでくださいよ」 「でも!」  本当に大丈夫だったのだけど、大谷があまりに必死な顔で頼み込むので、光はつい頷いてしまった。 「じゃあ……お店選び、一緒にして貰えますか? 他の雑用は俺がしますんで」 「はい、喜んで!」  光は、大谷は歓迎される側のひとなのに逆に気を遣わせてしまって申し訳ないと思いながらも、日勤終了後に二人で詰所のパソコンを使って居酒屋を検索するのは楽しかった。  大谷も、ここに来たばかりのときのような暗く沈んだ表情を見せることは、もうなかった。 * 大谷の歓迎会は、話が持ち上がった二週間後に行われた。普段ならもう少し余裕を持って参加者を募集するのだが、二か月後には忘年会を控えているため、現在参加表明できる人のみで行われることとなった。  場所は病院にわりかし近いところにある居酒屋で、休みの人は現地集合、日勤者は仕事が終わったあとにみんなで歩いて向かった。光も大谷も今日は日勤だったので、二人横に並んで歩いていた。 「大谷さん、明日は休みなのでたくさんお酒飲んでくださいね」 「はい! 三澄さんはお酒得意ですか?」 「そこまでは……でも飲み会の雰囲気は嫌いじゃないです」 「なるほど」  居酒屋で予約名を名乗り奥の座敷へ案内されると、既に今日休みだったスタッフが既に数人待っていた。光はバックパックを降ろすと、幹事として参加費の徴収を始めた。大谷は手伝いたそうに光のそばでソワソワしていたが、他のスタッフの手前手伝えず、代わりに先輩ナースの小泉が光の作業を手伝った。 「大谷君、かなり今更だけどようこそ二階病棟へ~! カンパーイ!」 師長が元気よく乾杯の音頭を取り、大谷の歓迎会が始まった。
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