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ボク、輝宮柊馬(てるみやとうま)が化け狐を拾ってからもう三年も経つ。長いようで短いようなそんな気分だ。此処、花月神社には遥か昔巨狼も居たそうだ。そんなおとぎ話みたいな生き物さえこの神社に迷い込んでしまうのだから、化け狐の一匹や二匹どうとも思わないわけで正直なところを言ってしまえば興味すらわかなかった。
ボクは、猫の様な性格だと周りに良く言われている。確かに的を得た意見だと思う。だって、今でもその化け狐に興味すら示していないんだから。そもそも名前や住んでいた場所すら分からない化け狐の事を家族だとか思ってない。ただ住まわせている、という感じだ。
化け狐、と呼ぶのもあまりにも失礼だからボクは決してそうは呼ばない。まずどう呼べば喜んでくれるのかも分からないから話し掛けても居ない訳で、こんな新米神主をどう思っているのかも謎だから迂闊に声を掛ける事もできない。
「……、とーま、とーま」
色々な事を考えているとボクを呼ぶ声が聞こえた。ボクは辺りを見渡す。けれど、そこには誰もいなくて首を傾げるのと同時に足元に抱き着かれた感覚がした。ボクはビクッと身体を跳ね上げさせそろりと足元を見ると小さな幼子に化けた狐が其処に居た。
「……何?」
ボクは、ほっと息を吐くと狐にそう問い掛けた。狐は嬉しそうに微笑みながら桜の花をボクに見せた。
「…この花、綺麗。何て名前?」
こてんっと首を傾げる狐が可愛らしく見え思わず微笑んでしまった。
「これは桜と言って春になると咲くんだ。色んな桜があるから今度花見でも行く?」
「…さく、ら。……!いい、の?余、花見、したい」
目をぱちぱちと瞬きさせた後嬉しそうにする狐を見てボクはこの時初めて狐に興味を示した。この時の感覚は、後になっても消えずにボクの中に残っていると思う。だから、この化け狐に名前をあげようと思ったのもこれが初めてだ。
「キミに名前をあげる。…桜の季節だから、初めの文字は桜次の文字は一斗缶の斗。この二文字を合わせて桜斗(はると)。どうかな?」
ボクは、不安気に狐を見詰める。狐は、目を丸め初めて与えられた名前におどおどしていたが最終的に目を輝かせ嬉しそうにはしゃいだ。
「はる、と。余の名前。嬉し」
この時初めて狐…いや、桜斗は気の抜けた笑みをこぼしたかもしれない。
ボクは、きっとこの笑顔を見たかったのかも。そう思えて仕方がないくらいだ。
新しい家族とまた沢山の思い出を作っていこう。
end
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