花魁と、遊女

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花魁と、遊女

「また、来ておくんなんしえ。待ってやすから」 「ありがとう。絶対来るよ」 「ええ、きっとでありんすよ?」  (うらら)花魁は客を見送ると、ゆっくりとした足取りで店へ歩いた。  店の前まで来ると、聞き覚えのある声に声をかけられた。  「(うらら)花魁、ただいま戻りんした」  淡い桜の着物を着た紅葉賀(もみじのが)屋の遊女、桜花(おうか)が佇んでいた。 「ええ。お帰りなんし」 「お客様のお見送り帰りでありんすか? ちょうど良うござりんした。あのお客様から伝言をお預かりしてやす」  そう言い、手渡されたのは小さな便箋だった。 「これが伝言なの? 誰から?」 「澪様という、公家の公子様でありんす。昨日、女将に夜、渡して帰っちまったと」 「澪様っ⁉」  その名前を聞き、思わず声を上げた。 「はい、そう伺いんしたわ」 「ありがとう、桜花(おうか)」 「いいえ、わっちはこれからちょいと買い出しへ」 「いってらっしゃい」  桜花(おうか)を見送り、(うらら)花魁は店へ戻った。 「ただいま戻りんした、女将さん」 「お帰りなさい、(うらら)。ゆっくりしなさい。最近、仕事が多いんだから」 「ええ」  駆け足で部屋へ戻ると、すぐさまに手紙を開けた。  畳に腰を下ろし、ゆっくり読み始める。  (うらら)花魁へ。  昨日はごめん。店に顔を出せなくて。  婚約パーティーがあって、抜け出して手紙を届けたんだ。  父様達は、華族の姫君を寵愛したのだが、僕には君にしかいない。  たとえ、花魁出身で貴族じゃないだろうが気にしない。  また、逢える日まで。 「――澪様、婚約者が決まりそうなのね……」  由緒正しい公家の澪は、いち早く結婚してほしいのが身内達の願い。  だが、澪は(うらら)花魁を娶ろうとしている。 「お優しい方だこと。あちきを妻にしたいと思ってくださる方がいるなんて、思ってもいのうござりんしたもの」  深いため息をつき、畳を一点を見つけた。 (でも、きっと華族の方を娶るでありんしょうね。前にいたあの方も、そうでありんしたもの。今は……どうしていることか) 「(うらら)花魁ー⁉」  長廊下から誰かが(うらら)花魁を呼んだ。 「どうしたの?」  返事をすると、遊女は小さな声で答えた。 「あの、紫葉(しば)花魁がいらっしゃっておりんす……」 「紫葉(しば)花魁が⁉ 」 「入るわ」  客間には禿を連れた花魁が腰を下ろしていた。 「ごめんなんし、突然。でもね、教えなきゃいけねえことがあったのよ」  名前の通り、紫の着物を着た紫葉(しば)花魁は、年齢とは合わない大人っぽい顔立ちで客を魅力にしていた。 「何? 教えなきゃいけねえことだなんて。貴女らしゅうないわ」 「そうかもね、確かに。――あのね、、桜花(おうか)って娘いるでありんしょう?」 「ええ」 「あの娘、澪様を狙ってるそうよ。禿が教えてくれたわ。そうなんでありんしょう? 胡蝶(こちょう)」 「ええ、そうなんでありんす。道でよう一緒に歩いていて、楽しそうに話してるのを見かけんした」 「……………澪様と、、桜花(おうか)が?」 「ええ」 「本当かは分からねえけど、気をつけなんしえ? 前のお客みたいになるわよ」 「――分かっているわ。もう、二度とあんな思いはしとうござりんせんもの」 「……それだけよ、それだけ」 「――貴女の方こそ、大丈夫?」 「大丈夫よ。何かあったら、言うから」
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