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あれから数日後、紅葉賀屋は変わらなかった。
今日も夕暮れが近づき、店の中も徐々に賑やかになり始めている。
「髪結いさん、来たわよー」
「ねえ、一昨日言ってた着物どこにあるの?」
「今日、誰が来るの?」
「女将さーん?」
長廊下は遊女や禿が行ったり、戻ったりを繰り返している。
麗花魁も着物を着替え、化粧をしている最中だった。
「花魁、髪結いさん来んした」
「こんばんは」
髪結いが会釈をし、部屋へ入る。禿が準備した鏡には、相変わらず眩い姿が映っていた。
「花魁、まだ澪様はこちらへいらしてるかい?」
「ええ」
麗花魁は、嫌な予感がした。
また、桜花のことかもしれない……。そして、ゆっくりと聞き返した。
「どうして?」
「澪様、若い遊女と歩いてたんですよ。えっと、数日前くらいに」
(やっぱり)
「若いって言っても、花魁と年はあんまり変わらなそうで」
「桜花?」
「そう! その名前ですよ!!」
「澪様のことを好きなのかしら……。前に一度、言っていた気がするの」
「え?」
「ある若い公家の公子に魅かれたと。でも、その方はとうていわっちに興味はない、そんなことを言って、あちきを応援していたのにあれは嘘ということになるのね」
「花魁……」
「澪様はきっと、桜花に心奪われるでありんしょうから。あちきもそろそろ、身請け話を聞かねえと……」
「…………」
「暗い話をしてごめんなんしね」
「いや」
髪結いは首を横に振る。
「他の娘も結ってあげてちょうだい」
「あぁ。じゃあ、また明日」
「ええ」
優しく微笑んだ麗花魁を見て、髪結いは長廊下へ出た。
「――夕顔、朝顔や、簪を付けてあげようね」
優しく二人の禿を撫で、自分が持っている簪を付けた。
「やったぁ!!」
「ふふ。ありがとうね、手伝ってくれて。さ、夕食を食べに行きなんし。今日は煮物だしんしょうえ」
「煮物⁉ 早う行こー」
「持ってぇ~」
笑いながら部屋を出る二人を見届けて、
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