憂い

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憂い

紅葉賀(もみじのが)屋 「麗花魁、そんな暗い顔をして。お客が見たら、どう思うか」  部屋で洗濯物をたたみながら、女将は言う。  (うらら)花魁は窓からぼっーと、太陽が花街へ差し掛かるのをずっと見ていた。 「そんなこと、今はどうだっていいのよ。もう、顔を合わせられねえわ。何と思われちまったか。あちきは不安で押しつぶされちまいそうでありんす」 「そんなことを言うなんて、珍しいことでありんす。あんたはいつも、強気なのに。時間が経てば、何か変わるさ」 「…………確かにそうかもしれんせん」 「それに、いつまでのあの方ばかりを考えてござりんせんで、身請け話もそろそろ持ちかかる頃じゃありんせんか。あんたのことでありんしたら、公家、華族の妻にもなれるだろうね」 「身請け話か……」 「持ちかかったら、教えるから」  そう言い、女将は部屋から出て行った。 「身請け話だなんて、馬鹿らしいこと。あちきを本当に愛してくれる方は一体、誰何でありんしょうか――?」
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