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祖母が私の隣に座って、団扇で風を送ってくれていた。
庭の向こうは美しい田園風景で、青々と稲が育つ田んぼと田んぼの間の道が祖母の家の横まで坂道となって続いている。
蝉の声をBGMに祖母が語る昔話を聞きながらぼんやりとその景色を眺めているうちに、私はうとうとと眠りにつくのが常だっだ。
突然、うるさいほどに鳴いていた蝉の声が止み、静寂が訪れる。
するとその静けさの中、私の家に向かって田んぼの中の緩やかな坂を優雅に上がってくる女性がいるのに気づく。
私は眠っているのに、半分覚醒しているのか、なぜかそれが見えている。
その女性は麻の涼しげなノースリーブの白いワンピース、白いサンダル、白いハンドバッグを持ち、白い日傘を差していた。黒く長い髪なのはわかるのだが、顔は日傘で影になって見えない。見えないけれど、その雰囲気からとても綺麗な人なのだとわかる。綺麗で、なぜか恐ろしい……。
やがてその人は私の家の敷地に入ってきて、縁側に近づくと祖母に向かってこう聞く。
「佐和子です。清香ちゃんはいますか? 清香ちゃんをもらいに来ました」
清香は私の名前だ。
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