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大規模クラスターから10年、第一感染者家族はいま。
20☓☓年、世間を恐怖に陥れた大規模な感染が起こった。
高橋十夜(たかはし とおや:当時22歳)さんは海外から帰国後、自宅に戻り母親の入院する病院へと向かった。その日は朝から軽い咳の症状を自覚していた。
ガン治療中の母親を気遣い、マスクをして大部屋で母親としばらく会話をした。
しかし、一時間ほど会話をしたところで大部屋にいた、高橋親子以外の入院患者含めた家族が一斉に苦しみだし、病院は一時騒然となった。
二時間後に部屋にいた患者、家族は全員死亡が確認され、対応した医師、看護師も後遺症が残るなどした。
高橋さんは隔離施設に幽閉。専門家によって、高橋さんの体内には殺傷能力が非常に高い未知のウィルスがあることがわかった。偶然そのウィルスに耐性をもっていたために、高橋親子は感染しても悪化することはなかった。
専門科の管理の元、高橋さんが持つウィルスの研究が進められた。
幽閉後、高橋さんは精神を病み、ガンの悪化で母親が亡くなったことを知らされると、施設の壁に頭を何度も打ち付け自ら命を絶った。
十夜さんの問題ある行動に当時、世間の間では非難が飛び交った。
地方のとある木造アパートに高橋さんの家族が住んでいる。
我々取材班が向かったときに丁度、買い物帰りの高橋さんの父親と出会った。
…また取材ですか。
いいえ、慣れてしまいました。
ああ、これですか。息子に食事を、と買ってきたんです。
そうですね、まだ、なくなったご家族から手紙が来ます。私の息子を許さないと。息子は死んでしまったんですけどね。謝罪の手紙を送る日々です。
ああ、はい。そうですね。
息子が病院であれを起こしてから、自宅にくる記者の対応は大変でした。
もう一人の息子と娘は学生だったので、守ってやりたかったんですけど、
一人じゃどうすることもできなくて。
学校で酷いことをたくさん言われたみたいですよ。
人殺しとか、死ねとか、ウィルスがうつるなんて…、子供は容赦ないですよね。
十夜はもう一人暮らししていたので、自分たちは関係なかったんですけどね。
ネットで誰かが情報を流したんでしょう、見ず知らずの一般の方々が自宅にやってくることもありました。家の窓を割られて、らくがきもされて、娘の通っていた大学までやってきて、娘は中退せざるをえませんでした。
高校生だった勇也(十夜さんの弟)が頭から血を流して帰って来た時は、勇也が殺されると思って、娘と息子を守るために東京から出たんです。
…ええ、知らない人が突然投げてきたと言っていました。
ああ、勇也が同級生を殴ったこと、ですか。
…俺は責めようなんて思いません。
勇也は戦ったんです。
家族を悪く言われたら、黙ってられないじゃないですか。
勇也は普通に学校に行ってるだけだったんです。
勇也は間違ったことはしてません。
十夜も仕事で海外に行ってただけなんです。毎月妻のお見舞いに行く優しい息子でした。
殺して無いんです、誰も。
自分たち家族が死ねば許してもらえるのかとも考えました。
でも、勇也と早苗は関係ないんです。
…ええ、勇也はずっと家にいます。
頭に石をぶつけられてから外に出られなくなったんです。
…あの、これで最後にしてくれませんか。
そうです、取材とかもう…。
勇也はずっと前からおかしくなってるんです、ずっと、部屋で独り言を言ってて、心が壊れたんです。
もうやめてください。
子供らをこれ以上苦しめないでください。
私らの事は放っておいてください。
これ以上はもう、本当に。
やめてください。
お願いします、お願いします。
帰ってください。
もう、来ないでください。
さようなら。
父親はそう言うと何度も我々に何度も頭を下げ、足早にアパートに向かった。
感染者家族の父親の表情からは我々からは想像もできない、苦悩の日々を連想してしまう。
現在もウィルス感染による被害者は後遺症に悩まされ続けている。
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