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決意(side:y)
「今日こそは……告白する!」
私は電柱の影で拳にぐっ、と力を入れた。通行人からの視線を感じるけど気にしない。
私の目は信号待ちをしている標的、吉岡君の姿を補足している。
高校一年のバレンタインデーは人生に一度きり。放課後になり、チャンスは残り少なくなってきていた。イケメンで優しい、憧れの吉岡君は当然ながら大人気で、休み時間は声をかけられなかった。おまけに今日に限って先生に呼び出されたり、幼なじみのヒロトに邪魔されたりしたのだ。
あぁ、ヒロトのことを思い出すと腹が立つ。
なにもなければ、今年もヒロトに義理チョコくらい渡すつもりでいたのに。
あいつったら……。
いかん、イライラが沸き起こる。考えないようにしよっと。
とにかく、追い込まれた私は放課後に賭けた。
友達のミカにも「健闘を祈る!」と親指を立てられ、ヒロトがトイレに行った隙に教室を出て、吉岡君の後をつけた。でも、結局声をかけられずにいる。
なんて話そうか、今朝から何十通りもシュミレーションして、リュックにはチョコもあるのに。
勇気が、出ない。
吉岡君は駅前広場のベンチでスマホをいじっている。たぶんゲーム。
私は近くの植え込みに隠れて様子をうかがう。
こうしている間にも時間は刻々とすぎていく。彼もずっとあそこにいないだろう。わかっている。
私は息をすぅ、と吸い込んだ。
がんばれ一歩踏み出すんだ笹島雪乃!
「うぉぉ!」と可愛らしくない鬨の声をあげて、吉岡君へと一歩踏み出した、その時。
ドン!
人にぶつかった。
けっこうな勢いで、私は尻もちをつく。
「あいたた……」
「悪い、大丈夫か?」
男の子の声。
見上げて私はぎょっとした。
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