31人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「あ……」
またしても言葉が出ない。
私はじわじわと後ずさる。
一応、彼に足はある。幽霊ではない。
ということは。
やばい。
さっきとは違う意味でやばい。
やばい人だ。
私はショート寸前の思考回路を無理矢理起動し、落ちた文房具などを拾い集め、リュックに押し込み、
「ししし失礼しますぅ」
と駆け出した。
いやこの際だからこのまま吉岡君にチョコを渡してしまえばいいのでは。ダッシュ&プレゼント方式。だいぶ変な渡し方だけど変人って自覚はあるから問題ない。さんきゅやばい人、おかげで決心がついたわ、渡してしまえばこっちのもん……と考えつつ見回すと幸い、吉岡君はまだ元のベンチに座っていた。
私が「吉岡君!」と声をかけようと口を開いた、その瞬間。
「ちょっ、待てよ!」
背後から必死な声がした。
「頼むから、待ってくれ」
なんていうか、声がマジで。
私は振り向いた。そして固まった。
さっきのやばい人が、半透明になっていた。
向こう側に通行人が透けて見える。
「は? え?」
今度こそ思考回路がショートした。
最初のコメントを投稿しよう!