動揺(side:y)

1/5
前へ
/13ページ
次へ

動揺(side:y)

「レディーに対してガキとは何よ、ガキとは」  私はほっぺたを膨らませてフィフにつっかかる。拘束解除されたものの、彼が私を見る目は冷たい。 「なあ、あいつじゃないとダメなのか?」 「はぁ? 何その少女漫画で使われそうなセリフ……はっ! キミまさかこの私に惚れちゃったりなんかしちゃったりして」 「んなわけあるか。  ただ、雪乃があいつに告白しようとしたら僕の存在が危うくなる。未来に繋がる歴史のずれが生じるんだ」  私はきょとんとした。 「え? 私、フィフとどこかでつながりがあるの?」 「可能性はある。  で、改めて聞くけど。  付き合うのも、結婚するのも、あいつじゃないとダメなのか?」 「……」  一瞬、なぜかヒロトの顔が浮かんだ。  私は頭を振る。  なに考えてるの雪乃。 「あいつを好きになったきっかけは?」 「――吉岡君、私が科学雑誌読んでるのを『かっこいい』って言ってくれたの」 「……」  今度はフィフが沈黙する。 「昔から私、機械とか宇宙とか、理系方面が好きで。ほら、普通そういうのってあんまり女子は好きじゃないイメージあるじゃない。  家族や友達は受け入れてくれてるけど、それ以外の人には『頭いい子ぶってる』とか『勉強できますアピール?』って言われることもあって……」  私はうつむく。 「だから『かっこいい』って言ってくれて嬉しかった、かな。  その一言で舞い上がっちゃって。  吉岡君はイケメンで誰にでも優しくて、みんなの憧れで。  私も憧れですませるつもりだったけど。  ミカが、バレンタインに彼氏にチョコ渡すって言ってて、うらやましくなって。  私だって、いっつもお父さんやヒロトに義理チョコ渡してばっかじゃなくて、誰かに本気チョコ送りたいな~ってぼんやり思ってたら、ヒロトと……喧嘩して」  そこで私の言葉は途切れた。  あれ?  微かな違和感。 「ヒロトって?」 「私の幼なじみ。高校入ったらデビューのつもりなのか、急によそよそしくなって。でも最近『今年もチョコくれるんだよな?』って必死になって聞いてきて。それがしつこくて喧嘩して……」  私は昨日の放課後、教室でのやりとりを思い出す。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加