動揺(side:y)

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 高校に入って、ヒロトは変わった。眼鏡をやめて、コンタクトにして、長めの髪をばっさり切った。  話しかけても顔をそらされるようになった。  登下校だって、別々になった。私のマニアックな話を、にこにこしながら聞いてくれたのに。 「まぁ、幼なじみだからっていつまでもつるんでいるのもね」と自分を納得させて、ただのクラスメイトですよ、って顔をしてたのに。  急に「チョコが欲しい」だなんて。   「しつこいなぁ。もう子供じゃないんだから、義理が欲しいって年でもないでしょ?」 「でも俺とお前の仲だろ?」 「最近しゃべってもいないじゃん。  あ、さては友達同士で何個もらったとか競争するんでしょ。  そんなために私のチョコ、義理でも渡さないもんね」 「ちげーよ、あのな……」  ヒロトは口ごもってうつむく。そのまま十秒、二十秒。  しびれを切らした私は、先に宣言した。 「私、今年は本命に渡すもんね」 「え……」  石のように固まるヒロト。 「そんなにショック受けなくても。私だって渡したいなーと思う人いますぅ」 「だ、誰に渡すんだ」 「吉岡君」  別に名前を言わなくてもよかったかもしれない。  でも人気者の吉岡君の名前を出したら「あいつにはかなわないな」と上手いこと引き下がってくれると思ったのだ。ところが。 「吉岡? あいつがお前みたいなの本気で相手にするわけないだろ」  焦ったようにヒロトは否定してきた。 「なっ……わかんないでしょ!  決めた! 私ぜぇぇったい吉岡君に本命チョコ渡す!  付き合ってくださいって告白する!」 「はぁ? なんでそうなるんだ、おい、待てよ」 「うるさいバカ!」  そして私は、教室から走って逃げたのだった――。 「そっからずっとヒロトのこと無視してて、だけど吉岡君に渡そうとしたら無言で立ちふさがってきて、マジなんなんあいつって腹が立って、意地でも吉岡君に渡してやるって……でも、あれ?」 「気づいたか」  フィフはふう、と溜息をついて、それからニヤリと笑った。 「それ、僕からするとただの痴話喧嘩に聞こえるけどな」 「痴話……はっ、はああああ!?」  私の顔が赤くなる。  でも、確かに。  自分で話していて気づいた。  これじゃまるで、ヒロトに対するあてつけだ。
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