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「今日、12時に迎えに来るから」
夕方の検温の時に、血圧を測りながら湖城が声をかけてきて「えっ……」と顔を湖城の方へ向ける。
「うん。熱も血圧も問題なし。この間、言ったでしょ。流星群見に行こうって。天気も問題なさそうだし、天体観測日和だよ」
この間の話、本当にやるんだ……とボーッと考える。まぁ、どっちでもいいけど……
「あ……はい。本当に行くんですね……」
「もちろん。俺、すっごく楽しみにしてたんだから。まぁちょっと、付き合ってよ」
目を覚ましてから、外に出るのは初めてだった。ベッドの縁に座って座位を保つことはできたけど、こんな体で外に出ることなんて出来るのかなとも思う。外に出ても、星を見ても今の状態から何か変わるとは到底思えなかったけど、それもまたどうでもいいやとも思う。
気づくと9時の消灯時間になり、看護師の真崎朝也が病室に来た。朝也は、湖城が休みのときに担当として来ることが多い。朝也が来るということは湖城は、もう勤務ではないということだ。確かに今日は日勤だったから、この時間は夜勤になるのでいるはずがない。
「湖城から預かってきた。夜はもう冷えるから、ちゃんと着ることだって」
ベッドの上に広げられたのは、パーカーやウィンドブレーカーだった。湖城は星を見に行くことは秘密だと言っていたけど、どうやら朝也は知っているようだ。朝也も一緒に行くのか聞いてみると勤務中だから一緒には行かなけど、周りにバレないで屋上に行けるようにサポートしてくれるらしい。湖城は勤務ではないのに、連れて行こうとしているのか……
「あの人……仕事じゃないのに、こんなことするんですか……」
「ん?あぁ……。逆に勤務中だと連れて行けないからな」
「わざわざ、そんなことしなくてもいいのに……」
「んーまぁ、俺もそう思うけど。でも、あいつが好きでやってることだから、郁島君が気にすることではないよ。夜、あんまり眠れてないんだろう。だったら、ちょっとあいつに付き合ってやってくれ」
よくわからなかったけど曖昧に頷く。見つかったら怒られるって言ってたのに、そんなに自由でいいんだろうか。そもそも、1人の患者にここまでするのだろうか。朝也が病室の電気を消して、消灯の時間になってもやっぱりいつも通り眠れるわけがなくて、そんなことを考えていた。
また、病室の扉が開き、朝也が何か言い忘れたのかと思ったけど、入ってきたのは私服姿の湖城だった。時計を見るとあと10分程で日付が変わろうとしていた。あれから3時間近く経っていた。
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