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ふぁ〜と大きな欠伸が出る。昨日の夜のことは、夢のか現実なのか……。湖城に好きだと言われて、颯も好きだと言って。昨日の唇の感触を思い出して、顔が一気に熱くなる。あの後はふわふわしすぎてよく覚えていなかった。特に付き合おうと言われたわけではなく、両思いでいいんだよねと頭の中で湖城の言葉を反芻する。男同士だし、患者だし、そういうことにはならないのかもしれない。颯自身この先どうしていいのかわからず、はぁ……と短くため息が漏れた時、サイドボードに置いていたスマホが、低い音をたてながら振動する。液晶に表れた湖城の名前に、ドキッと大きく胸が鳴る。昨日夜勤だったので、10時をまわったこの時間は、勤務が終わって帰っているはずだったけど、メッセージには「少し話したい」とあった。
ロビーまで降りると、外来患者でごった返していた。湖城に指定された12月にクリスマスツリーが飾られていた場所は、当然ながらツリーは撤去されていて、代わりにピアノが置かれていた。場所は間違いないはずだけど、キョロキョロと辺りを見渡しても湖城の姿が見当たらない。スマホで連絡しようかと思った時、後ろから声をかけられた。
振り返るといつものナースウエアではなく、私服の湖城がいた。見慣れない私服姿に胸がうるさく鳴り、目が合うと紅潮し始める自分に気づいて俯いてしまう。混雑しているとこからやや離れて、並んで椅子に腰を下ろす。隣にいるのは入院してからずっと関わってきた湖城なのに、看護師という業務から解放されたプレイベートな彼は初めてで妙にドギマギとして落ち着かず、何を喋ったらいいのかもわからなかった。
「あの後、眠れた?」
その上、さらにあの後のことを思い出して、目が合った湖城に裏返った声で返してしまう。もう恥ずかしさのオンパレードでこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。
「あれから、俺、色々考えてさ……えーっと、今は颯くんとは付き合えないかな」
「……あーそうですよね……」
半分予想していた言葉だったけど、湖城の口から改めて言われると突き刺さる。
「あ、待って。違う違う。えーっと、そうじゃなくて、誤解してほしくないんだけど……付き会いたくないわけじゃなくて……昨日颯くんを好きだって言ったことには偽りはなくて、これは俺の問題なだけで……」
「どういうことですか?」
「だからね、付き合っちゃうと、患者としての線引きができなくなっちゃうというか……そうなると担当外されかねないし……だから、退院するまで待ってほしいというか……」
必死に言い訳をしている湖城を見てると、おかしさと安堵と嬉しさで「ふふっ」っと笑いが込み上げてくる。そんな颯の様子を見て不貞腐れたように「なんだよ。笑うなよ」と軽く小突かれた。
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