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萌音が帰ってからすぐに娘が昼寝を始めたので、その間に洗濯物を干すため縁側から庭に出る。物干しに衣類を干す作業は、ぼんやりと考え事も出来るので好きだった。
九月も半ばに入ったが、未だに日差しはギラギラと差し込んでいる。
明日からまた実家にお世話になるから、メッセージを送らないと。そう言えば宗吾の連絡先って前と同じなのかな……そこまで考えて、六花の頭に疑問が生まれる。
もし変わってなければ、私の連絡先を知ってるんじゃない? でも何も連絡がないということは、宗吾は私と会う気がなかったりする……?
六花は気落ちしそうになったが慌てて頭を横に振る。どうしてこんなにネガティブな考えばかりしちゃうんだろう……。萌音さんも言っていたけど、自己完結は要注意だわ。でももう少し自分に自信が持てたら、こんな考えにもならないはずなんだろうな……。
とにかくクヨクヨしてたって何も進展はしない。それなら自分からぶつかっていかないと。昔の私の方が元気で明るかったとか言われるのは絶対に嫌だもの。
洗濯物を干し終え、部屋に戻ろうとした時だった。玄関前の砂利を誰かが踏む音がしたのだ。
萌音さんが何か忘れ物でもしたのだろうかーーそんなふうに思いながら部屋に戻り、玄関に向かう。
「萌音さん? 何かあった……」
何気なくドアを開けてしまった六花は、相手の顔を見た瞬間に硬直する。
「嘘……何でここに……」
ドアの外に立っていたのは、Tシャツにデニムというラフな格好の宗吾だったのだ。
奥で愛生が寝ていることを思い出し、咄嗟に宗吾の前に立って部屋の奥が見えないようにした。まだ何も打ち明けていないのに、バレるわけにはいかない。
「どうしてここがわかったの……?」
六花が言うと、宗吾は無表情のまま彼女をじっと見つめる。静かな部屋の中は、時計の針の音だけがやけに大きく響いていた。
萌音との会話で、明日には宗吾に会いに行くつもりだった。それなのに彼がここに来るなんてことは考えもしなかったため、どうしたらいいのかわからなくなる。
急にいなくなったから怒っている? それとももう失望した? しかしそれとは裏腹に、もし私を探して来てくれたのなら嬉しいのにと思う自分がいた。
宗吾は安堵の表情を浮かべると、黙ったまますっと手が伸ばして六花の髪に触れる。たったそれだけで、六花の体は喜びに震えた。
「いきなりいなくなるから心配した」
「それは……ごめんなさい……。でも今はーー」
「ちゃんと話がしたいんだ」
「せめて明日じゃダメ? 今日はこんな格好だし……それに……」
しかし宗吾は視線を上げ、部屋の奥をじっと見つめる。
「……まーちゃんは寝てるのか?」
「えっ……」
彼の言葉に六花は衝撃を受けた。口を固く結び、視線が宙を右往左往する。
ちょっと待ってーーどうして宗吾がまーちゃんのことを知っているの?
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