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二人の会話で起こしてしまわないように、寝室のベッドに愛生を寝かせ、六花は部屋の扉をそっと閉めた。
ノブを掴んだまま大きく息を吐く。この家に宗吾がいることが信じられず、二人きりになる勇気が出ない。
意を決し、軋む廊下をなるべく音を立てないようにゆっくりと歩いていくと、コーヒーの良い香りが漂ってくる。
居間に戻った六花の目に飛び込んできたのは、コーヒーが注がれたマグカップがちゃぶ台の上に二つ置かれていた光景だった。キッチンには洗い物をする宗吾の姿があり、不思議と懐かしい感覚に陥る。
二人で一緒に暮らしていた時、こうやってコーヒーを淹れてくれたり、洗い物をやってくれたっけーーそれが時を経て、違う場所で行われているなんて。
タオルで手を拭いていた時に、ようやく六花がいることに気付いたようで、驚いたように目を見開いてから笑顔になる。
「いたんだ。気付かなかった。ごめん、勝手にキッチン借りたよ」
「ううん、大丈夫。コーヒーありがとう。道具の場所とかよくわかったね」
「まぁ一ヶ月とはいえ、一応一緒に暮らしたしね。それにある程度の道具が出ていたから」
先ほど出しっ放しにした物を指差したので、六花も納得したように頷く。
二人はちゃぶ台を挟んで向かい合って座ると、黙ったままコーヒーを口にした。一口飲んだその瞬間、六花の頬が綻ぶ。猫舌の六花はブラックコーヒーと牛乳を半々、砂糖をスプーン二杯分を入れて飲むのが好きだったが、宗吾が淹れてくれたコーヒーはまさにその味だったのだ。
「覚えてたんだ」
「当たり前だろ。忘れるわけないよ」
「そっか……」
まるで二人だけがあの頃に戻ったかのような錯覚。甘くて優しい気持ちが蘇ってくる。だけどこの時間に甘えてはいけないことはわかっていた。
ちゃんと向き合うって決めた。今度こそわだかまりを残すようなことはしないで、全て曝け出そう。
しかしそう思っていたのは六花だけではないようで、宗吾は六花をじっと見つめてから口を開いた。
「あのさ……六花の誤解を解きたくて……だから朝夏さんの話をしてもいいか? 決して六花を不安にさせたりしないから」
朝夏の名前を聞いて思わずドキッとした六花は、眉間に皺を寄せて渋い顔をした。
「……本当は嫌だけど……でもちゃんと向き合おうって決めたから大丈夫」
「いいのか?」
六花が頷くと、宗吾は六花の髪に触れて微笑んだ。
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