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車は一等地にある高層マンションの地下駐車場に吸い込まれていく。
これはもしかして……すごくお金を持っている人の住居じゃないかしら。そういえば彼の素性を何も知らないことにようやく気付いた。まさか怪しいことに手を出してたりしないわよね……不安ばかりが募っていく。
今乗っているこの車だって高級車だし、彼が一体何をしている人なのか分からず六花は困惑した。
車が停車した後、緊張した面持ちで助手席から降りる。宗吾がトランクからキャリーバッグを出していたので、自分で持とうと駆け寄ったが、それを片手で制御されてしまった。
白を基調とした落ち着いたエレベーターホールに入り、宗吾は上へのボタンを押す。先ほどまではよく話していたのに、何故か彼が突然無口になったような気がした。
「何階なの?」
「えっ、あぁ、十五階」
「……私、そんな高い所に住んだことないよ。高所恐怖症ってわけじゃないんだけど、ちょっと怖いのよね」
「そうなの? 意外」
「あまり言ったことはないから。でも誰でもそういう秘めたことってあるでしょ?」
様々な意味を込めて六花は宗吾を見つめた。
あなただってそうじゃないの? あの時に抱いていた想いを、きっと未だに胸に秘めたままなんでしょう?
宗吾は六花の瞳をじっと見つめ、
「そうだな……」
とだけ呟いた。
到着したエレベーターに乗り込み、上へと昇っていくのを体で感じながら、カウントダウンをするように数字を目で追っていく。
恋人と別れて、同棲を解消して、再会したばかりの友人の家に行こうとしている。今日はなんていう日なんだろうか……六花は深く息を吐く。
生きるって楽しいことばかりじゃないのはわかってる。だとしても、最近は苦しいことや辛いことの方が勝っている気がしていた。
何のために働いているんだろうーーやり甲斐が見出せなかった。
エレベーターが止まり、扉が開く。絨毯が敷かれた室内のエレベーターホールはプライベートが確保されているように見える。
益々彼の正体がわからなくなってきた。宗吾の後について歩きながら、ここまでついてきてしまったことを後悔し始めていた。
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