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「どうした?」
宗吾の声にハッとして顔を上げると、彼が扉を開けて待っていた。
「あなたが一体何者なのかわからないから不安になってるだけ」
彼の後について部屋に入る。よくテレビでみる高級マンションのイメージ通り、白の大理石の玄関と靴箱の扉についた大きな姿見、高い天井からは小さなシャンデリアが吊り下げられていた。
「大丈夫。悪いことはしてないから。強いて言うなら、親がお金持ちってことかな」
スリッパに履き替えて部屋へと招かれると、ここにもテレビでよく見るアイランドキッチンや小さなバーカウンター、ワインを保管する冷蔵庫が見える。
広いリビングには何人座れるかわからないくらい広々とした黒の革ソファと、電気店でしか見たことがないサイズのテレビが壁に掛かっていた。
なんて生活感が違うのかしら……部屋を見回し、少しずつ冷静さを取り戻していく。
そういえば大学の時にも、さりげなく小物とかに高級ブランド品が混じっていた。あの頃に住んでいたマンションだって、大学生が住むにしてはいい立地だったし。言っていないだけで、元々お金持ちの坊ちゃんだったのね。
その時、一度玄関の方へ戻っていた宗吾が部屋部屋に戻ってくる。
「キャリーバッグは客間に運んだから」
宗吾は冷蔵庫のドアを開けながら、なんでもないことのように簡単に呟いたが、六花は聞き逃さなかった。
「はぁ? ちょっと待って。泊まらないわよ。ちゃんと帰るんだから……」
「帰る場所があるのか?」
宗吾にじっと見つめられた六花は、その瞳を直視できずに逸らしてしまう。
「そんな格好であんな大きなキャリーバッグを持って、違和感ありすぎるんだよ」
「……旅行からさっき帰ってきたの」
「どこに行ってたんだ?」
「ア、アメリカ」
「じゃあ中を開けてもらおうかな。お土産の一つでも入ってるだろうから、酒のつまみにしよう」
六花は唇をグッと噛んだ。言い返せない自分が悔しかった。キャリーバッグの中には服や化粧品ばかり。それ意外は後日取りに行くことになっていたのだ。
「なんで知ってるの? まさか知世と繋がってるとか?」
宗吾はパッと視線を逸らした。それから何事もなかったかのように冷蔵庫からビールの缶の取り出す。
「誰だよ、知世って。俺は別に……ただそんな気がしただけだよ」
知世の名前には本当に心当たりがないようだった。とはいえ慌てて視線を逸らした姿からは疑惑は消えなかった。
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