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「今日話したの?」
六花は苦笑しながら頷く。
「……いつまで待てばいいのって、不満が爆破しちゃった。今までのことを全部ぶちまけたら、あいつ何て言ったと思う? 『俺の中では今じゃない』だって。もう無理って言ったら『じゃあ別れよう』って……」
「それで家を飛び出したのか……」
六花は頷く。そうなるような予感はしていた。だからキャリーバッグを購入して、少しずつ準備を進めていた。部屋にあった私物を少しずつ持ち出しては、姉の部屋に置いてもらっていたのだ。
そうならなければいいという僅かな希望を持ちながらも、部屋の中は実乃莉の期待に比例するかのように重要度の低いものが大半を占めていく。
「でも不思議なのよ。悲しいって気持ちは全くなくて。もしかしたら私、とっくに愛情は冷めてたのかもしれない。ただ結婚がしたくてしがみついていただけなのかもって思ったの」
家を出てから一滴の涙も出なかった。今までたくさん泣いたから、もう枯れてしまったのかもしれない。
宗吾は六花をじっと見つめる。
「そいつと結婚したいわけではないんだ?」
「今思えばね。小さい頃から結婚願望が強かったから、その名残りなのかも」
絵本のお姫様に憧れていただなんて恥ずかしくて言えなかった。でもいつかそんな日が自分にもやって来るはずだって信じていたのに……今はその想いを信じきれない自分がいる。
すると宗吾が手を伸ばして六花の顎に手を添えてきたので、思わず目を見開いて身構える。彼は体を起こして顔を近付けると、唇が触れるか触れないかのギリギリの距離感で口を開いた。
「じゃあさ、俺が結婚してやろうか?」
それは想像の範疇を超えた言葉だった。
「……はぁっ? 意味わかんないんだけど。なんで私があんたと結婚するの?」
「だって結婚したいんだろ? だからしてやるって言ってんじゃん」
「し、してなんて頼んでないわよ!」
「強がるなよ。結婚を考えていた相手と別れたばかりだし、本当はちゃんと結婚出来るか不安に思ってるんだろ?」
図星過ぎて何も言えなくなる。それを感じ取った宗吾は話を続けた。
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