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「この部屋を見ればわかるだろうけど、俺ってなかなか好条件の男だと思うぞ」
六花は部屋をぐるりと見渡す。普通の会社員ではないことが伺い知れるほどの広さと、夜景の素晴らしさ。何の仕事をしているかを聞くのは怖いが、確かにスペックが高いのは頷ける。
とはいえ俺様的性格のこいつと私が結婚? しかも再会したばかりで、一晩だけ体の関係は持ったけど付き合っていたことはない。なのにそんな不安しかないような提案を受け入れろっていうの?
「そういうことを自分で言っちゃう所は逆に信用できないのよね」
すると宗吾はケラケラと笑い出した。
「さすが阿坂だなーーまぁ実は俺にも結婚したい理由があるんだけどさ」
「それなら納得。まぁ一応聞いておくわ。どんな理由なわけ?」
宗吾はニヤッと笑って、顎に触れていた手を六花の頬へと移動させる。
「いいね、話が早い。よくある後継者問題だよ。親父は俺に後を継がせたい。そのために結婚して身を固めて欲しいらしい」
あぁ、やっぱりどこぞのお坊ちゃんだったんだーーようやく今までの不自然に感じていた部分が腑に落ちたが、それと同時に違和感も覚える。
「……それなら別に私である必要はないわよね。私はただの一般市民。あなたが生きているような場所に縁もゆかりもないもの」
「確かにね。でも今勧められてるお見合い相手が、大して知りもしないとある企業の娘でさ」
「むしろ好条件じゃない。おめでとう」
宗吾の指から逃れるように顔を背けると、彼は行き場をなくした手をそっと引っ込めた。
「……でも結婚だぞ? せめて知ってる人としたいとは思わない?」
「別に結婚してからだって知る機会はたくさんあるわよ。相手がいるのに断りたいなんて贅沢な悩みじゃない」
「じゃあそれをそっくりそのまま返すよ。俺との結婚を断るなんて贅沢だな」
「なっ……! だってあんたのことよく知らないし、いずれ離婚するような関係なら結婚なんかしない」
「へぇ、思った以上に夢みがちなんだ」
「……悪い? じゃあこの話はなかったことにーー」
「それはない」
六花の言葉に被せるように宗吾が言い放ったため、驚いた彼女は口を閉ざした。
「俺にはそもそも結婚願望がないんだ。だから阿坂がそばにいてくれたらそれだけでいいんだよ。それに結婚してからだってお互いを知る機会はあるんだろ?」
「い、言ったけど……」
このままだと墓穴を掘るだけになりそうで、六花は唇を噛んだ。とんでもないことを言われているのに、返せない自分が悔しい。
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