1 大学〜最悪な第一印象〜

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* * * *  あの飲み会の日以来、会えば嫌味ばかりの関係が続いていた。それは六花の本心ではないが、相手に嫌われているなら仕方ない。とりあえずサークルの時だけと自分に言い聞かせていた。  四年になり卒業も近付いてきた冬の日。卒業論文を書き上げて教授への提出を終えた午後、構内を歩いていた六花は空き教室の中に宗吾がいるのを見つけた。電気もつけず、ぼんやりと窓の外を見ている。  何を見ているんだろうーー気になりつつも、また嫌味を言われるくらいなら関わらないほうがいいと思い、すぐにその場を離れようとした。  だがふと足が止まる。再び後退り、ドアのガラス窓から中を覗き込んだ。椅子を窓辺に寄せ、窓ガラスに力なく寄りかかり、グレーのパーカーは左肩がダラっとずり落ちている。  いつもやる気はなさそうだったが、珍しく元気もなさそうに見えた。  放っておけばいいじゃない。散々嫌な思いだってしてきたのよ。私には関係ないんだから。  そう思うのに、心と体は全く正反対の反応を示す。そのままドアを勢いよく開けて中に入ると、腕を組んで仁王立ちになった。  突然大きな音が響いたため、宗吾は勢いよく振り返る。そして六花を見て顔を(しか)めた。 「お前……なんでここに……!」  張り合いなく言った宗吾の目元は赤く腫れており、六花は驚いたように目を見開く。そのことに気付いた宗吾は慌てて顔を背けた。 「……用がないならとっとと出て行けよ」  いつもならここで嫌味のやり合いをするのだが、彼のあんな様子を見てしまっては六花は応戦する気にはなれなかった。  ため息をつくと後ろ手に扉を閉め、宗吾から少し距離を置いた席に腰を下ろす。持っていた茶色の皮のショルダーバッグを机にどさっと置き、彼と同じように窓の方を向く。  窓からは青空が見えるだけで何も変わり映えはしないことから、宗吾が空を眺めていたとは思えなかった。 「話くらい聞いてあげてもいいけど」  何かあったに違いない……そう思うと何故か放っておけなかった。 「はっ? 別に何もねーよ」 「……本当にあんたって素直じゃないよね。話せばスッキリすると思うのに、いつも心の中に溜め込んでばっかりじゃない」  六花の呟きを聞くと、宗吾は椅子の背もたれに全体重を預けるように倒れ込んだ。
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